家族を事業に従事させ、その給与を経費として計上することで節税効果を得ることができます。しかし、適切な手続きや条件を守らなければ、税務署に否認される可能性があります。ここでは、家族への給与支払いに関するルールや注意点、節税のポイントを詳しく解説します。
家族への給与支払いの基本ルール
家族に給与を支払い、その金額を経費として計上するには、次の条件を満たす必要があります。
- 事業専従者であること
- 配偶者や親族が、実際に事業に従事していることが条件です。
- 「手伝い程度」ではなく、継続的かつ実質的に事業に携わっている必要があります。
- 合理的な給与額であること
- 家族への給与は、その業務内容や労働時間に見合った金額である必要があります。
- 他の従業員や同業他社と比較して不自然に高額な場合は、否認される可能性があります。
- 届出書を税務署に提出すること
- 青色申告の場合、「青色事業専従者給与に関する届出書」を事前に税務署に提出する必要があります。
- 白色申告の場合も、事業専従者控除を受けるための手続きが必要です。
青色申告と白色申告の違い
家族への給与支払いに関して、青色申告と白色申告では適用されるルールが異なります。
- 青色申告の場合
- 「青色事業専従者給与」として、実際に支払った給与全額を経費に計上できます。
- 税務署に「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出することが条件です。
- 白色申告の場合
- 「事業専従者控除」として、一定額を所得から差し引くことができます。
- 控除額は、1人あたり50万円(配偶者の場合)または86万円(その他の親族の場合)までです。
- 実際の給与額に関わらず、控除額は固定されています。
青色事業専従者給与の手続き
青色申告で家族への給与を経費にするためには、以下の手続きと条件を満たす必要があります。
- 届出書の提出
「青色事業専従者給与に関する届出書」を事業開始後2カ月以内、またはその年の3月15日までに税務署に提出します。 - 労働契約書の作成
家族との間でも、労働契約書を作成しておくと良いでしょう。給与額や勤務内容を明記することで、税務調査時の証拠となります。 - 給与の実際の支払い
支払いは必ず現金または振込で行い、帳簿や通帳に記録を残します。「名目上の給与」ではなく、実際に支払われていることが確認できるようにすることが重要です。 - 給与額の妥当性を確認
支払う給与が業務内容や労働時間に見合った金額であることを示す必要があります。他の従業員と同じ基準で設定するのが一般的です。 - 帳簿の整備
給与支払いに関する記録を正確に残しておく必要があります。給与台帳を作成し、給与額や支払い日を明確に記録しましょう。
経費として計上できる内容
- 給与そのもの
- 家族に支払った給与額全額が経費として計上できます。
- 給与に伴う経費
- 給与支払いに伴う社会保険料や源泉所得税も経費として認められます。
給与額の設定例
家族が事業に従事する時間や仕事内容に応じて、適切な給与額を設定しましょう。
例1:配偶者が事務作業を担当する場合
- 仕事内容:経理作業や資料作成
- 労働時間:週5日、1日4時間
- 設定給与額:月8万円(時給1,000円 × 20日)
例2:子どもがアルバイトで事業を手伝う場合
- 仕事内容:商品梱包や発送作業
- 労働時間:週3日、1日2時間
- 設定給与額:月2万円(時給1,000円 × 12日)
注意点
- 届出書を提出していない場合
- 「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出していないと、給与を経費として計上できません。
- プライベートな支出の混同
- 家族への給与として設定した金額を、家族の生活費として使っている場合は否認される可能性があります。
- 業務内容が不明確な場合
- 家族が具体的に何をしているのかが分からないと、経費として認められない可能性があります。業務内容や時間を明確に記録しておきましょう。
- 給与額が不自然に高い場合
- 他の従業員や市場相場に比べて極端に高い給与は否認される場合があります。
家族への給与支払いによる節税例
事例:青色申告を行う個人事業主Aさん
- Aさんの年間所得:500万円
- 配偶者が事務作業を担当し、年間給与を120万円支給
- 支給した給与額は経費として全額控除可能
節税効果の試算
- 経費を計上しない場合の課税所得:500万円
- 経費として120万円を計上した場合の課税所得:380万円
課税所得が減少した結果、所得税や住民税が軽減され、数十万円の節税効果が得られました。
まとめ
家族への給与支払いは、正しい手続きと条件を守ることで、効果的な節税手段となります。特に青色申告の場合、支払った給与を全額経費にできるため、事業所得を大幅に減らすことが可能です。ただし、不適切な給与設定や届出の漏れがあると、税務調査で否認されるリスクもあるため、注意が必要です。しっかりとした管理と記録を心掛け、安心して活用できる節税方法にしましょう。