医療費控除は、1年間に支払った医療費が一定額を超えた場合に、所得から差し引くことができる制度です。この控除を活用することで、払いすぎた税金の還付を受けることができます。ただし、適用条件や必要書類について正しく理解しておかなければ、控除を受けられない場合があるので注意が必要です。
医療費控除の概要
医療費控除は、年間で支払った医療費の合計額が「10万円」または「所得金額の5%」のいずれか少ない方を超える場合、その超過分が控除の対象となります。
医療費控除の計算式
控除額 = 支払った医療費の総額 – 保険金などで補填された金額 – 10万円(または所得の5%)
例:控除額の計算
- 支払った医療費:25万円
- 生命保険で補填された金額:5万円
- 所得金額:400万円(5%=20万円)
この場合、10万円よりも所得の5%(20万円)の方が少ないので、控除額は以下のように計算されます:
25万円 – 5万円 – 20万円 = 控除額は5万円
医療費控除の対象となる費用
医療費控除の対象となるのは、治療のために必要な支出です。具体的には以下の費用が含まれます。
- 病院での治療費や診察費
病院や診療所での診察費、入院費、手術費などが該当します。 - 薬局で購入した医薬品費用
医師の処方箋に基づいて購入した薬や、市販薬でも治療目的の医薬品が対象となります。 - 通院のための交通費
公共交通機関を利用した通院費も対象です。ただし、タクシー代は緊急時以外は対象外となる場合があります。 - 介護費用
特定の条件を満たした介護サービス費用も控除対象です。 - 歯科治療費
虫歯治療や矯正治療なども、治療目的であれば控除対象となります。ただし、美容目的のホワイトニングは対象外です。
対象外の費用の例
- 健康診断や人間ドック(異常が発見された場合は一部対象)
- 美容整形や健康増進のための費用(エステやサプリメントなど)
セルフメディケーション税制との併用は不可
2017年から「セルフメディケーション税制」が開始され、市販薬の購入費用について一定額を控除できる制度が設けられました。ただし、医療費控除とセルフメディケーション税制は同時に適用することはできません。どちらを選ぶべきかは、支払額や控除額を比較して判断する必要があります。
控除を受けるための手続き
医療費控除を受けるには、確定申告時に「医療費控除の明細書」を提出する必要があります。2017年以降、領収書の原本を提出する必要はなくなり、明細書への記入が義務付けられています。ただし、領収書は5年間保管する必要があります。
必要書類
- 医療費控除の明細書
- 医療費の領収書(保管用)
- 保険金や給付金の支払明細書(補填された金額がある場合)
- 本人確認書類(マイナンバーなど)
医療費控除の注意点
- 同一生計の家族分も対象
配偶者や扶養家族が支払った医療費も、申告者がまとめて控除を受けることができます。同じ家計であれば、世帯全体の医療費を合算して申告することが可能です。 - 期限内の申告が必要
医療費控除の申告は、確定申告の期限内に行う必要があります。期限を過ぎてしまうと控除を受けられないため、早めの準備が大切です。 - 交通費の記録を忘れない
通院にかかった交通費を計上する場合、日付や利用した交通機関を記録しておくことが重要です。領収書がない場合でも、詳細な記録があれば認められることがあります。
例:医療費控除を活用した節税
Aさん一家は、年間で以下の医療費を支払いました。
- Aさんの入院費用:30万円
- 配偶者の通院費用:5万円
- 子どもの歯科治療費:10万円
合計:45万円
所得金額が500万円の場合、控除額は以下のように計算されます:
45万円 – 10万円(補填金額なし) = 控除額35万円
この場合、35万円が所得から差し引かれるため、所得税や住民税が軽減されます。
まとめ
医療費控除は、医療費の負担が大きかった年に大いに役立つ制度です。ただし、適用条件や対象範囲を正しく理解していないと、申告が受け付けられない可能性もあります。家族全体の医療費を合算し、領収書や明細をしっかり準備して、確実に控除を受けましょう。